テストステロン補充で抜け毛は増える?男性型脱毛症(AGA)のリスク、治療薬の相談と自毛植毛の評価
テストステロンを補充すると抜け毛は増えるのでしょうか?テストステロンそのものがすべての方に脱毛を引き起こすわけではありませんが、もともと男性型脱毛症(AGA)の素因がある場合、補充によって生え際の後退や頭頂部のボリューム低下が目立ちやすくなる可能性があります。影響の大きさを左右するのはテストステロンの量だけではなく、アンドロゲン(男性ホルモン)に対する毛包の感受性です。
外来に、数年前から筋力トレーニングを続けており、最近泌尿器科でテストステロン補充療法を始めた30代の男性がいらっしゃいました。椅子に座るなり前髪をかき上げて、「先生、友人からテストステロンを打つと髪が抜けると言われたのですが、やめたほうがいいでしょうか?」と尋ねられました。私はまず自己判断で休薬しないようお伝えし、どの診療科で処方されたか、どのくらいの期間使用しているか、ご家族に脱毛症の方がいるかを伺ったうえで、ダーモスコピーを使って生え際と頭頂部の毛包を確認しました。
ポイントの整理:テストステロン補充が直ちに抜け毛につながるわけではありませんが、男性型脱毛症(AGA)の素因がある方は注意が必要です。治療を続けるかどうかは処方医と相談し、自己判断で休薬したり薬を追加したりしないでください。抜け毛については、まずAGAかどうかを確認したうえで、経過観察や治療、あるいは自毛植毛の評価に進むかを検討します。
テストステロンを補充すると必ず抜け毛が増えますか?
必ずしもそうではありません。テストステロンを補充しても髪の量に目立った変化がない方も多く、変化が現れるケースの大半は、もともと男性型脱毛症(AGA)の素因を持っている方です。
医療におけるテストステロン補充療法は、医師の診断によって確認されたテストステロン低下症(性腺機能低下症)を改善するためのものであり、通常は泌尿器科、内分泌科、または一般内科などで評価を受けたうえで処方されます。補充の目的は身体に必要な基準範囲へ戻すことであり、多ければ多いほどよいというものではありません。
そのため、私は「テストステロンを補充している」という理由だけで抜け毛が増えると判断することはなく、脱毛のパターンや家族歴、そして毛包の状態を総合的に確認します。
もしご自身の抜け毛がAGAではなく他のタイプではないかと心配な場合は、男性型脱毛症(AGA)だけじゃない!5つの脱毛タイプ・症状と見分け方の記事もご覧ください。
テストステロンはなぜ男性型脱毛症(AGA)と関係があるのですか?
体内のテストステロンの一部は、5αリダクターゼ(5α還元酵素)という酵素の働きによって、より作用の強いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されます。男性型脱毛症(AGA)の素因がある方では、頭頂部や前頭部の毛包がDHTに対して特に敏感であり、年々髪が細く短くなって、最終的には細く柔らかい産毛のような状態になります。
この感受性は主に遺伝によるものです。同じアンドロゲン濃度であっても、髪の量に影響が出ない方がいる一方で、早い段階から生え際が後退する方がいるのは、毛包自体の性質に違いがあるためです。
したがって、テストステロンの補充は新たな脱毛症を作り出すというよりも、「もともと持っていた体質が表に出やすくなる」といったほうが適切です。なお、後頭部や側頭部の毛包はDHTの影響を受けにくいため、これが自毛植毛におけるドナー採取の基本となります。
すでにご自身にAGAの傾向があるのではないかと気になる場合は、男性のAGA(男性型脱毛症)とは?原因・進行度分類と治療の選択肢の記事もあわせてご覧ください。
医療用のテストステロンと筋トレ用のステロイドは同じものですか?
同じではありません。外来でもこの2つを混同されている方が少なくありませんが、髪への影響だけでなく全身の健康リスクにも大きな違いがあります。

筋力トレーニングを行う方のなかには、筋肉を増やす目的で自己判断によりアナボリックステロイド(蛋白同化ステロイド)を使用するケースがありますが、その用量は医療用途をはるかに超えていることが多く、医師による経過観察も行われない傾向があります。男性型脱毛症(AGA)の進行を早める可能性があるだけでなく、心血管系、肝臓、精神状態、生殖機能に悪影響を及ぼすおそれもあります。
| 比較項目 | 医療用テストステロン補充療法 | 自己判断によるアナボリックステロイド使用 |
|---|---|---|
| 使用目的 | 検査で確認されたテストステロン低下症の改善 | 筋肉増強、運動パフォーマンスの向上 |
| 処方と経過観察 | 医師の評価後に処方、定期的な血液検査で経過観察 | 多くの場合、医師の評価や経過観察がない |
| 用量 | 正常範囲に戻すことを目標とする | 身体の必要量をはるかに超えることが多い |
| 髪への影響 | AGAの素因がある方では変化が目立つ可能性がある | AGAの素因がある方では進行がさらに早まる可能性がある |
| その他の健康リスク | 医師が経過観察の結果に応じて調整 | 心血管系、肝臓、精神面、生殖機能に影響する可能性がある |
もし現在、自己判断でこうした製品を使用している場合は、髪のことだけを気にするのではなく、まずは安全に対処する方法について医師に相談することをお勧めします。
テストステロン補充中の抜け毛は、どのように観察し相談すればよいですか?
すでにテストステロンを補充中で、髪のボリュームが減ったと感じても、まずは自己判断で休薬したり用量を変更したりしないでください。テストステロンの低下そのものも気力や体力、骨の健康に影響するため、休薬するかどうかは処方医と一緒に評価する必要があります。

受診前に、次のような準備をしておくことをお勧めします。
- 同じ照明条件のもとで、生え際、頭頂部、分け目の写真を定期的に撮影しておく
- 補充を始めた時期、剤形、直近の血液検査の結果を控えておく
- 父方・母方それぞれの親族における脱毛症の有無を整理しておく
- 抜け毛が前頭部や頭頂部に集中しているか、頭部全体が均一に薄くなっているかに注意する
診察時にこれらの資料をご持参いただければ、まずダーモスコピーで男性型脱毛症(AGA)かどうかを確認し、その評価結果を処方医への参考情報としてお渡しすることができます。
AGA治療薬そのものの副作用についても気がかりな場合は、AGA治療薬の副作用をどう捉える?性機能への懸念・外用薬という選択肢と自毛植毛の評価の記事もご覧ください。
テストステロンを補充している人は、AGA治療薬を併用できますか?
相談のうえで検討することは可能ですが、双方の医師が把握している必要があります。フィナステリドなどの内服薬は、5αリダクターゼを阻害してDHTを減らすことで男性型脱毛症(AGA)の進行を抑える薬であり、テストステロン補充とは作用の方向性が異なるため、テストステロン自体の働きを直接打ち消すわけではありません。
ただし、体調や併用薬は一人ひとり異なるため、使用が適しているか、どの剤形を選ぶべきかは、医師が全身状態を確認したうえで判断する必要があります。また、外用薬のminoxidil(ミノキシジル)は別の選択肢であり、その作用機序はアンドロゲンとは関係ありません。
なお、同時期に妊活(挙児希望)の計画がある場合は、テストステロン補充や一部のAGA治療薬において特別な配慮が必要になることがあるため、使用前に必ず医師へ伝えてください。
これらの薬剤はいずれも医師の処方や指導のもとで使用するものであり、自己判断での購入やインターネット等を通じた個人輸入での使用は推奨されません。
フィナステリドの作用や副作用について詳しく知りたい場合は、フィナステリドとは?AGA治療薬の働き・副作用と自毛植毛の評価の記事もご覧ください。
テストステロンを補充している人は自毛植毛を受けられますか?評価のポイントは?
評価を受けることは可能です。テストステロン補充そのものが自毛植毛の禁忌となるわけではなく、重要なのは脱毛の進行が比較的安定しているかどうか、そしてドナー部(採取部)の条件が十分かどうかです。

移植する毛包は後頭部や側頭部から採取します。これらの部位の毛包はDHTに対する感受性が低いため、移植後も元の性質を維持しやすいのが特徴です。しかし、既存の髪はAGAによって引き続き細くなる可能性があるため、自毛植毛を受けた後も既存毛の管理は同様に重要です。
評価の際には、主に以下の点を確認します。
- テストステロン補充の状態が安定しているか、最近用量の調整があったか
- 前頭部や頭頂部の脱毛が現在も急速に進行していないか
- 後頭部および側頭部のドナー部における髪の密度と太さ
- 既存毛を管理するためにAGA治療薬をすでに使用しているか、または使用する予定があるか
- 全身の健康状態や服薬状況について、事前に処方医への確認が必要か
- 生え際の高さや密度に対して、現実的な期待を持っているか
ご自身の毛包やドナー部の条件について気になる場合は、自毛植毛の前に評価すべき髪の状態とは?脱毛パターン・ドナー部・髪質のチェックの記事もご覧ください。
自毛植毛を見合わせたほうがよいのはどのような場合ですか?
以下のような状況では、まず手術を見合わせることをお勧めしています。
- テストステロン補充を始めたばかり、または用量を調整したばかりで、抜け毛の変化をまだ観察している段階である
- 自己判断でアナボリックステロイドを使用中である、または中止後の経過観察が行われていない
- 抜け毛の進行が明らかに早く、脱毛範囲がまだ定まっていない
- 処方医が、現在の身体状態を優先して対処すべきと判断している
- 自毛植毛に対して「手術を受ければ二度と髪は抜けない」という期待を抱いている
見合わせるということは「手術が受けられない」という意味ではなく、服薬と脱毛の状態がある程度落ち着くのを待ってから計画したほうが、長期的に自然な生え際や密度をデザインしやすくなるためです。
現在のご自身が自毛植毛に適しているか気になる場合は、自分は自毛植毛に向いている?8つのセルフチェックと外来での評価基準の記事もご覧ください。
医師からのメッセージ:自己判断で休薬せず、髪と身体を一緒に考えましょう
テストステロンで髪が抜けると聞くと、すぐに自分の判断で薬をやめようとする方が少なくありません。しかし、テストステロン補充には通常、医学的な理由があります。休薬するかどうかは、まず処方医と一緒に相談して決めていただきたいと思います。
私にお手伝いできるのは、まずその抜け毛が男性型脱毛症(AGA)によるものか、どの程度進行しているか、そしてドナー部の条件がどうかを確認することです。お薬と抜け毛の状態がともに落ち着いた段階で、既存の髪の管理方法や、自毛植毛が適しているか、どのタイミングで検討するのがよいかを一緒に話し合っていきましょう。
医療情報の参考文献
- Bhasin S, et al. Testosterone Therapy in Men With Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline. Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism(2018)
- American Urological Association:Testosterone Deficiency Guideline
- MedlinePlus(U.S. National Library of Medicine):Testosterone Injection
- MedlinePlus Genetics:Androgenetic alopecia
- National Institute on Drug Abuse:Anabolic Steroids and Other Appearance and Performance Enhancing Drugs
- International Society of Hair Restoration Surgery:A Guide to Hair Transplant Surgery
テストステロンを投与すると必ず男性型脱毛症(AGA)になりますか? +
必ずしもそうではありません。テストステロン補充後に髪の量が変化するかどうかは、主に男性型脱毛症(AGA)の素因があるかどうかにかかわっています。AGAの素因がない方は目立った変化が出ないことが多い一方、素因がある方は生え際の後退や頭頂部の軟毛化が目立ちやすくなる可能性があります。
テストステロン補充後に抜け毛が増えた場合、休薬すれば髪は元に戻りますか? +
脱毛のタイプや毛包の状態によります。男性型脱毛症(AGA)による毛包の軟毛化・ミニチュア化は徐々に進行するため、休薬だけで完全に回復するとは限りません。休薬するかどうかは処方医と相談する必要があり、自己判断での中止は推奨されません。
筋トレ用のステロイドで抜け毛は増えますか? +
自己判断でアナボリックステロイドを使用すると、男性型脱毛症(AGA)の素因がある方で脱毛の進行が早まる可能性があるほか、心血管系、肝臓、精神面、生殖機能にも影響を及ぼすおそれがあります。使用中の方は、まず医師に相談して全身の健康状態の評価を受けることをお勧めします。
テストステロン補充中にフィナステリドを併用できますか? +
医師に相談のうえで検討できます。両者は作用の方向性が異なりますが、使用が適しているか、どの剤形を選ぶか、どのように経過観察を行うかは、医師が全身状態をふまえて判断する必要があります。また、処方医には使用中のすべての薬を伝えてください。
テストステロンを補充している人が自毛植毛を受けると、結果に影響はありますか? +
移植する毛包はDHT(ジヒドロテストステロン)の影響を受けにくい後頭部や側頭部から採取するため、通常は元の性質を維持しやすいとされています。ただし、既存の髪はその後も細くなる可能性があるため、既存毛の管理と移植範囲を合わせて計画します。
テストステロン補充を始める前に、髪の状態を確認しておくべきですか? +
すでに生え際の後退や頭頂部のボリューム低下がある場合、または家族に脱毛症の履歴がある場合は、補充を始める前に写真を撮って記録し、必要に応じて医師によるダーモスコピー(頭皮マイクロスコープ)評価を受けておくと、その後の変化を判断しやすくなります。
関連記事
本記事は呉文藝医師が監修・専門的なアドバイスを提供しています
呉文藝医師|萌髪植毛クリニック 院長
- ● 国際毛髪外科学会 ( ISHRS) FISHRS フェロー
- ● 米国毛髪外科専門医認定 ( ABHRS) 認定医
- ● 中華民国植毛医学会 ( TSHRS ) 現会長。