瘢痕性脱毛症でも植毛はできる?毛包の炎症、安定期と植毛の評価
瘢痕性脱毛症でも植毛はできるのでしょうか。結論から言うと、検討自体はできますが、踏むべき順番があります。この脱毛症は、炎症によって毛包が壊され、瘢痕組織(傷跡のような組織)に置き換わってしまう病気です。そのため、一度抜けた場所からは通常もう髪が生えてきません。もし炎症が続いているうちに植毛をすると、せっかく移植した毛包まで攻撃されてしまいます。まずは確定診断をつけ、治療で炎症をしっかり抑え込み、落ち着いた状態がしばらく続いてから、初めて植毛の相談に入ります。
少し前、50代の女性が診察にいらっしゃいました。おでこがだんだん広くなり、眉尻も薄くなってきたとのこと。年齢のせいだと思ってしばらく育毛製品を使ってみたものの、まったく変化がなかったそうです。ダーモスコピーで頭皮をのぞいてみると、生え際の毛穴の周りに細かいフケのような鱗屑(りんせつ)と赤みがあり、一部はすでに毛穴が消えていました。よくある抜け毛とは様子が違ったため、まずは皮膚科で生検を受けて診断を確定してもらうようお伝えしました。
ポイントの整理:瘢痕性脱毛症で失われた髪は、基本的に元には戻りません。治療の一番の目標は、早く炎症を止めて残っている髪を守ること。植毛ができないわけではありませんが、診断と治療を経て、一定期間しっかり安定してから評価する必要があります。また、一般的な男性型脱毛症(AGA)に比べると、仕上がりの変化が控えめになることもあらかじめ知っておいてください。
瘢痕性脱毛症とは?なぜ髪が生えてこなくなるのか
一般的な脱毛症の多くは、毛包そのものは残っています。ただ小さくなっていたり、一時的に休んでいたりするだけなので、また生えてくる余地があります。しかし、瘢痕性脱毛症はそうではありません。毛包の周りで炎症が続き、最終的には毛包自体が壊されて、傷跡の組織に置き換わってしまうのです。
毛包という「種」がなくなってしまえば、そこから髪が伸びることはありません。だからこそ、外来ではいつも「気になったら早めに診せてくださいね」とお話ししています。炎症を早く食い止められるほど、守れる毛包も多くなるからです。
「瘢痕(傷跡)」と聞くと、ケガや手術の跡を思い浮かべる方が多いのですが、それとは少し違います。ここで言う瘢痕は、皮膚の下でじわじわ進んだ炎症の結果できたもので、外から見てわかるような傷口があるとは限りません。
もしご自身の抜け毛が男性型脱毛症(AGA)とは違う気がすると感じているなら、抜け毛が急に増えた?5つの主な原因と医師の検査方法の記事もあわせて読んでみてください。
主な瘢痕性脱毛症にはどんな種類がある?
瘢痕性脱毛症というのは一つの病名ではなく、いくつかの疾患をまとめた呼び方です。外来でよく拝見するのは、次のようなタイプです。

| タイプ | よくみられる層 | 好発部位と特徴 |
|---|---|---|
| 毛孔性扁平苔癬 | 成人、女性にやや多い | 頭頂部やあらゆる部位。毛穴の周りの赤み・鱗屑があり、かゆみやピリピリした痛みを伴うことがある |
| 前頭線維性脱毛症 | 閉経前後の女性に多いが、男性にもみられる | 前頭部や側頭部の生え際が少しずつ後退し、眉毛の薄毛を伴うことが多い |
| 中央遠心性瘢痕性脱毛症 | 縮毛(くせ毛)の方に比較的多い | 頭頂部の中心から始まり、外側に向かって広がっていく |
| 脱毛性毛包炎 | 成人 | 膿疱(うみ)やかさぶたを繰り返し、1つの毛穴から何本もの毛が生えているように見えることがある |
| 円板状エリテマトーデス | 成人 | 局所的な赤い斑点や鱗屑ができ、その後に色素変化や瘢痕が残る |
聞き慣れない難しい名前ばかりですが、無理に覚える必要はありません。ただ、「タイプによって治療の進め方が少しずつ違うので、自己判断せずにまず診断をつけることが大事」という点だけ心に留めておいてください。
どんなサインがあれば瘢痕性脱毛症を疑うべき?
初期の段階では、普通の抜け毛やちょっとした頭皮の荒れと見分けがつかないこともよくあります。もし次のようなサインがあれば、様子を見すぎず早めに受診してください。
- 髪が抜けた部分を触るとツルツルしていて、毛穴が見当たらない
- 頭皮のかゆみ、ピリピリした痛み、熱っぽさがあり、なかなか引かない
- 毛穴の周りに赤みやフケのような剥がれ(鱗屑)がある、または膿疱を繰り返す
- 生え際が下がるのと同時に、眉毛も薄くなってきた
- 一般的な育毛ケアをしばらく続けても、薄い範囲が広がり続けている
もちろん、これらがあるからといって必ず瘢痕性脱毛症というわけではありません。単なる頭皮の湿疹でもかゆみやフケは出ます。はっきりさせるには、やはり医師の診察と、必要に応じた頭皮の生検が欠かせません。
瘢痕性脱毛症と、男性型脱毛症(AGA)・更年期の抜け毛はどう見分ける?
一番の見分け方は「毛穴が残っているかどうか」です。男性型脱毛症(AGA)や更年期の抜け毛では、髪が1本ずつ細く頼りなくなっていきますが、頭皮を見れば毛穴はちゃんと残っています。一方で瘢痕性脱毛症が進むと、毛穴そのものが消えてしまい、皮膚がツルッとして光沢のある見た目になります。
少しやっかいなのは、両方が重なって起きるケースがあることです。たとえば前頭線維性脱毛症は閉経前後に見つかりやすいため、「更年期のせいだろう」と思い込んでしまい、気づいたときには生え際がかなり後ろまで下がっていた、という方も少なくありません。
生え際の後退が目立ち、さらに眉毛まで薄くなってきたときは、ホルモンの変化だけのせいにせず、一度ダーモスコピーで頭皮をのぞいてもらうことをおすすめします。
更年期の抜け毛についても知りたい方は、更年期の抜け毛はどうする?ホルモンの変化、頭頂部の薄毛と植毛の評価も参考になるはずです。
瘢痕性脱毛症でも植毛はできる?どのくらい待つ必要がある?
検討はできますが、植毛は最初の選択肢ではありません。診断が確定し、炎症がしっかり抑えられ、しばらく安定した状態が続いていることが絶対条件になります。

どのくらい待てばいいのかは、人によって違います。私の外来では皮膚科の先生と連絡を取り合いながら、抜ける範囲がこれ以上広がっていないか、赤みや鱗屑が消えているか、かゆみや痛みがないかを一つずつ確認します。多くの方は少なくとも1〜2年、場合によってはそれ以上の経過観察が必要です。
正直なところ、この「待つ期間」はとてももどかしいものです。それでも、火事が完全に鎮火していない場所には木を植えられません。炎症が残っているうちに手術をすると、引っ越してきた毛包までダメになり、後頭部の貴重な髪を無駄にしてしまいます。採取できる後頭部の毛包には限りがあるからです。
もう一つ、事前に正直にお伝えしていることがあります。傷跡になった組織は普通の頭皮に比べて血流が良くないため、植えた毛の定着具合や出せる密度は、一般的な男性型脱毛症(AGA)の植毛よりも控えめになります。そのため、まずは狭い範囲に少しだけ植えてみて、ちゃんと育つか確かめてから次のステップを決める方もいらっしゃいます。
ご自身の体質的に傷跡が残りやすいのではないかと不安な方は、ケロイド体質でも自毛植毛は受けられる?傷跡リスクと安全適応評価ガイドの記事も目を通してみてください。
植毛の前に、医師は何を評価するのか?
一般的な男性型脱毛症(AGA)と比べると、瘢痕性脱毛症では手術前に確認すべき項目がぐっと増えます。

- 確定診断されたタイプと、これまでの皮膚科での治療・経過の記録
- どのくらいの期間落ち着いているか、ここ最近で抜ける範囲が変わっていないか
- 瘢痕になった部分の皮膚の厚み、柔らかさ、血流の良さ
- 毛を採取する後頭部や側頭部にまで病気が広がっていないか
- 今使っているお薬について、事前に皮膚科の先生と相談が必要か
- 仕上がりの濃さや生え際のラインについて、ご希望と現実的な見込みが合っているか
タイプによっては、植毛したあとにまた炎症がぶり返すこともあります。ですから、手術が終わったらすべて完了ではなく、その後も皮膚科へ通い続ける必要があります。植毛はあくまで見た目を補う手段であり、元の病気そのものは皮膚科で管理し続けなければなりません。
ご自身の毛包や後頭部の条件についてもっと詳しく知りたい方は、植毛前に評価する髪の状態とは?脱毛のタイプ・ドナー部・髪質もご覧ください。
どんな場合は植毛を一旦見合わせるべき?
診察の場で次のような状態が見られたときは、「今はまだ手術をせず、もう少し待ちましょう」とお話ししています。
- まだ確定診断がついていない、またはご自身でそうではないかと疑っているだけの段階
- 頭皮のかゆみ、赤み、鱗屑が続いていて、抜ける範囲がまだ広がっている
- 治療を始めたばかり、あるいはお薬を調整したばかりで、落ち着いているか判断できない
- 毛を採取する後頭部にも炎症や薄毛が出ている
- 植毛さえすれば、昔の通りの毛量にすっかり戻れると期待している
「見合わせる」というのは、決して見捨てるという意味ではありません。今はタイミングを待つことが、あなたの大切な後頭部の毛包を守ることにつながるからです。
医師からのメッセージ:まずは炎症を止めてから、植毛の話をしましょう
外来に来られる方の中には、椅子に座るなり「先生、すぐに植えられますか?」と聞かれる方もたくさんいらっしゃいます。特に生え際がどんどん後ろに下がっていくときは、鏡を見るたびに焦るお気持ちもよくわかります。ですが、この脱毛症ばかりは近道ができません。まずは診断をつけ、治療で火を消し、しっかり冷めるのを待つこと。この順番を飛ばすわけにはいかないのです。
もちろん、待っている間もただ手をこまねいているわけではありません。範囲が広がっていないか記録を取り、後頭部の状態をチェックしながら、皮膚科の先生と二人三脚で経過を見ていきます。本当に落ち着いたと確信できてから、植毛が選択肢になるか、どこにどう植えるか、どのくらいの変化が見込めるかをじっくり相談していきましょう。
医療情報の参考文献
- American Academy of Dermatology: Frontal fibrosing alopecia
- British Association of Dermatologists: Lichen planopilaris patient information leaflet
- British Association of Dermatologists: Frontal fibrosing alopecia patient information leaflet
- Ross EK, Tan E, Shapiro J. Update on primary cicatricial alopecias. Journal of the American Academy of Dermatology (2005)
- MedlinePlus (U.S. National Library of Medicine): Hair Loss
- International Society of Hair Restoration Surgery: A Guide to Hair Transplant Surgery
瘢痕性脱毛症で抜けた髪はまた生えてきますか? +
すでに壊れて瘢痕(傷跡)になってしまった毛包からは、残念ながらもう生えてきません。ただ、早めに炎症を抑えれば、周りのまだ元気な毛包は守れる可能性があります。できるだけ早く確定診断を受けることが大切です。
瘢痕性脱毛症は人にうつりますか? +
うつりません。毛包の周りで起きる炎症反応が原因ですので、誰かに触れて感染するような病気ではありません。ただし、一部のタイプでは感染が関わっていることもあるため、医師の診察が必要です。
瘢痕性脱毛症かどうかはどうやって診断しますか? +
まずは医師がダーモスコピー(頭皮用の拡大鏡)で観察し、必要があれば頭皮の生検(皮膚を少し採る検査)をしてタイプを確定します。タイプごとに治療方針が違うため、自己判断や市販薬での対処はおすすめしません。
瘢痕性脱毛症はどのくらい安定したら植毛できますか? +
決まった期間はなく、タイプや病状によって変わります。一般的には、抜ける範囲が広がらなくなり、頭皮の炎症も消えた状態をしばらく観察した上で、皮膚科の先生と連携しながら判断します。
瘢痕性脱毛症は植毛後に再発することはありますか? +
可能性はあります。タイプによっては手術の後にまた炎症が起きることもあるため、植毛後も皮膚科で定期的に診てもらい、少しでも変化があれば早めに対処しなければなりません。
前頭線維性脱毛症でも眉毛や生え際に植毛できますか? +
検討はできますが、やはり病状が落ち着いていることが大前提です。このタイプは眉毛と生え際の両方に症状が出やすく、移植した毛があとから影響を受けることもあります。どれくらいの結果が見込めるか、事前にしっかりすり合わせてから決める必要があります。
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本記事は呉文藝医師が監修・専門的なアドバイスを提供しています
呉文藝医師|萌髪植毛クリニック 院長
- ● 国際毛髪外科学会 ( ISHRS) FISHRS フェロー
- ● 米国毛髪外科専門医認定 ( ABHRS) 認定医
- ● 中華民国植毛医学会 ( TSHRS ) 現会長。